【代表コラム】
「寂しい」は消えない。
でも「帰れる」は残せる。
その「寂しい」は、何の寂しさですか
実家が解体されると決まったとき。空き家になった親の家を片付けているとき。更地になった現地に立ったとき。多くの人が「寂しい」と口にします。
でも、その寂しさが何の寂しさなのか、本人もうまく言葉にできていないことがほとんどです。「家がなくなるから」と説明しても、なんだか自分でもしっくりこない。建物がなくなるだけのことに、なぜ自分はこんなに揺さぶられているんだろう、と。
僕はずっとこの「寂しい」の正体を考えてきました。そして、自分なりにたどり着いた答えがあります。
寂しさの正体は、そこで過ごした幸せだった時間が、ぜんぶ消えてしまうような気がすることです。
家は、人と人との「接点」のハブだった
家というのは、ただの建物ではないんですよね。
あの家に、お正月になると親戚が集まってきた。子どもたちが廊下を走り回った。おばあちゃんが台所で料理を作っていた。お父さんやお母さんが若かった頃、そこで暮らしていた。たくさんの人が、たくさんの時間を、その場所に持ち込んでいた。
つまり家は、人と人との接点が集まる「ハブ」だったんです。あの家を中心に、家族のつながりが束ねられていた。
その中心の場所がなくなると、束ねられていた糸が、一気にほどけたような感覚になります。それぞれの親戚は今もどこかで生きているのに、なぜか「みんな遠くなった」気がする。あの寂しさの正体は、たぶん、つながりのハブを失った感覚なんです。
「寂しい」をなくす必要は、ありません
誤解しないでほしいんですが、僕は「VRがあれば寂しくなくなりますよ」と言いたいわけではないんです。
そんなことを言ったら、嘘になります。家がなくなる寂しさは、何をしても、消えません。それは消す必要のあるものでもないと、僕は思っています。寂しさを感じるのは、そこに大切な時間があった証拠だからです。
消そうとするんじゃなくて、寂しさは寂しさのまま抱えていていい。
ただ、その上で。寂しさの中に、もう一つだけ持っていてほしいものがあるんです。それが、「帰れる場所はある」という感覚です。
川口さんが、VRを見て言った「テルさんいるね」
これは、ある畠山家のお客様──近所に住んでいた、川口さんのお話です。
祖母のテルが亡くなって、家もなくなった、しばらくしたあとのことでした。僕がVRで残した畠山家の中を、川口さんに見てもらう機会がありました。タブレットの画面の中で、台所、居間、廊下、布団部屋──あの家の中を歩いてもらいました。
しばらく無言で見ていた川口さんが、ふっと、こう言ったんです。
祖母は、もう亡くなっています。VRの中にも、もちろん祖母は映っていません。それでも、川口さんはあの家の中に「テルさんいるね」と言ったんです。
あのとき僕は、自分のやってきたことの意味が、初めて自分でもはっきりわかりました。VRが残しているのは、空間だけじゃない。その空間にいた人の気配ごと、そこに残されているんだと。
「寂しい」と「帰れる」は、両立する
川口さんも、たぶん、寂しかったと思います。長年の友人だった祖母はもういないし、何度も訪れた家もない。それは事実です。
でも、VRの中の畠山家を歩いて、「テルさんいるね」と言えた瞬間、川口さんの中で何かが変わった気がしました。寂しさはそのままだけど、「もう会えない」じゃなくて、「いつでも会いに行ける」になった気がしたんです。
これが、僕がこの仕事で残したいものなんです。寂しさを消すんじゃなくて、寂しさを抱えながらも、いつでも戻れる場所を残す。「もう二度と」と「いつでも」は、両立します。
建物が消えてしまった瞬間、「もう二度と」しかなくなります。でも、空間を歩ける形で残しておけば、寂しさの隣に「いつでも」が生まれる。これは、人にとって、大きな救いになるんです。
「自分の寂しさを、どう抱えていいかわからない」あなたへ
実家が空き家になった人。これから解体の話を進めようとしている人。すでに更地になってしまっている人。
その「寂しい」を、無理に消そうとしないでください。寂しいのは、あなたが弱いからじゃない。それだけ大切な時間を、その家で過ごしてきたからです。寂しさは、過去がちゃんと豊かだったことの、証拠なんです。
そのうえで、もしまだ家が残っているなら──寂しさのとなりに「帰れる場所」を置いておくことができます。歩ける形のまま空間を残しておけば、寂しさを抱えたまま、それでも何度でもあの場所に戻ることができます。
もう更地になってしまっている方には、本当に申し訳なく思っています。それでも、これから空き家・解体に向かおうとしているご家族・ご親戚に、この話を伝えてあげてください。寂しさは消せないけれど、戻れる場所は残せる──そのことを知っているかどうかで、家族の未来が変わります。
話を聞くだけで構いません。「撮っておいたほうがいい気がする」──その感覚のままで相談してもらって大丈夫です。
株式会社Leoline代表 畠山 琢

