家の3Dスキャン、個人でもできる?
プロとの違い
個人で3Dスキャンができる時代になった
かつて3Dスキャンは数百万円する業務用機材でしか実現できませんでした。けれどここ数年、スマートフォンにLiDARセンサーが搭載され、無料・有料アプリの普及によって、個人でも気軽に3Dスキャンが行える時代になっています。
iPhoneのLiDAR搭載モデル
iPhone 12 Pro以降のProシリーズ(12 Pro / 13 Pro / 14 Pro / 15 Pro / 16 Pro)と、iPad Pro 2020以降のモデルにはLiDARセンサーが内蔵されています。Pro無印(12・13・14・15・16)には搭載されていないので、実家じまいで使う前に機種を確認してください。
主要アプリの特徴
Scaniverse(無料・MatterportのアプリでiOS/Android両対応)、Polycam(無料〜月額有料・3D編集機能が豊富)、3D Scanner App(無料・直感操作)、RoomPlan(Apple純正)が代表的。最初はScaniverseかPolycamを試すのがおすすめ。30分もあれば操作に慣れます。
Androidの3Dスキャン
AndroidスマホにはLiDARセンサーがありませんが、複数枚の写真から3Dを生成する「フォトグラメトリ」を使ったアプリ(Polycam・Luma AI)もあります。LiDARよりは精度が落ちるものの、家の雰囲気はつかめます。
個人向け360度カメラ
RICOH THETAやInsta360 ONEといった個人向け360度カメラ(3〜10万円)を使えば、各部屋の360度パノラマ写真を撮って、後でツアー形式に並べる方法も可能です。これは厳密には3Dスキャンではないですが、「歩く」感覚に近い体験が再現できます。
個人スキャンの広がりと限界
これらの個人向け手段で、家の中の様子をデジタル化することは確かに可能です。ただし「解体前の家を丸ごと、何十年も残す」という目的だと、後述するようにプロ機材との差は明確に出ます。「やらないより圧倒的に良い」けれど「プロと同等」ではない、というのが実情です。
個人スキャン vs プロスキャンの3軸比較(独自フレームワーク)
個人スキャンとプロスキャンの違いを「精度」「網羅性」「保存性」の3軸で比較すると、それぞれの得意領域がはっきり見えてきます。
軸1:精度(測定の正確さ・解像度)
プロの業務用3Dスキャナーはミリメートル単位で距離を測定でき、解像度も10mm/pixel未満。一方、スマホのLiDARはセンチメートル単位で誤差が出やすい。複雑な形(曲面・装飾)や暗い空間では誤差が拡大します。「正確な間取り図を起こしたい」「精細な空間を残したい」目的だと、プロ機材の精度が必須です。
軸2:網羅性(撮りこぼしの少なさ)
プロは家1軒を体系的に網羅する経験と機材があり、撮影漏れが極めて少ない。Matterportなど業務用は撮影点を自動連結する仕組みがあり、抜けがあると警告が出ます。個人だと、「ここは撮ったけれどここは撮ってない」といった抜けが出やすく、見返したときに「あの部屋がない」と気づくケースも多発します。
軸3:保存性(10年・20年後も使えるか)
プロは長期保存に適したデータ形式(GLB・USDZ・OBJ等の汎用形式)と、複数のバックアップ体制を持っています。業務用クラウドサーバーのSLAは99.9%以上が一般的。個人で作ったデータは、スマホの故障や機種変更でアクセスできなくなるリスクが大きく、アプリのサービス終了でデータ自体が見られなくなることも。「孫の代まで残したい」目的だと、保存性の差が決定的になります。
3軸の優先順位で選ぶ
「とりあえず雰囲気を残したい」なら個人スキャンで十分。「正確に残したい」「網羅的に残したい」「長く残したい」のどれかが必須なら、プロ機材の検討価値が高まります。3軸すべてで「最高水準」を求めるならプロ一択、1〜2軸だけ妥協できるならハイブリッド運用も現実的です。
個人でやる場合の手順と落とし穴
「まずは自分でやってみる」を選ぶ場合の、現実的な手順と落とし穴を整理します。
必要な機材:iPhone Pro / iPad Pro
LiDARセンサー搭載のiPhoneかiPad Proが基本。iPhone 12 Pro以降のProシリーズ、またはiPad Pro 2020以降のモデル。それ以外の機種だと、フォトグラメトリ系アプリで代用するか、家族にLiDAR機種を借りる必要があります。
おすすめアプリ:Scaniverse / Polycam
無料で始められるなら「Scaniverse」、機能の豊富さなら「Polycam」がおすすめ。どちらも、画面の指示に従って部屋の中をスマホで撮影していけば、自動で3Dモデルが組み上がります。最初は1部屋だけ試してみると感覚がつかめます。
撮影のコツ:ゆっくり・全体を網羅
スキャン中は、スマホをゆっくり動かしながら、部屋の四隅・天井・床まで含めて満遍なく撮影します。早く動かしすぎたり、同じ場所を撮らなさすぎると、データに穴が空いて再撮影になります。1部屋あたり3〜5分が目安、家1軒で1〜2時間程度。
明るい時間帯に撮影
LiDARは暗い場所が苦手。窓のカーテンを開けて自然光を取り込み、室内の照明もすべてつけて、明るい状態で撮影してください。逆光になる窓は影になりがちなので、午前中(10〜13時頃)など光のバランスが良い時間帯を選ぶと精度が上がります。
落とし穴1:データの保存場所と消失リスク
スマホのストレージにデータが入ったままだと、機種変更や故障で消える可能性が大きい。撮影後は、必ずクラウド(iCloud、Google Drive、Dropboxなど)にバックアップしてください。3か所以上にバックアップすると安心です。
落とし穴2:アプリ依存・サービス終了リスク
個人向けスキャンアプリは、開発元のサービスが終了するとデータが見られなくなることも。汎用的な3D形式(OBJ、PLY、GLBなど)でエクスポートして、複数の場所に保管することが推奨されます。アプリ独自形式だけで保管するのは危険です。
落とし穴3:撮影漏れに気付かない
個人スキャンだと「網羅的に撮ったつもり」でも、抜けがあることが多い。家族で集まったときに、何人かの目で確認しながら撮るのが効果的です。スキャン後の3Dモデルを確認し、穴が空いている部屋があれば再撮影。
落とし穴4:家族に共有しても見方がわからない
3Dデータの操作は、慣れていない人には難しい場合があります。家族向けには、動画形式(家の中を歩く録画)も並行して作っておくと、誰でも見られます。
落とし穴5:解体直前に間に合わなかった
「自分でやろうと思って、結局ちゃんと撮れずに解体日を迎えた」というのが最大の落とし穴。解体までに時間がないなら、迷わずプロに依頼するほうが安全です。
プロに依頼する場合のメリットと費用感
プロのVR空間記録業者に依頼すると、個人スキャンでは得られない複数のメリットがあります。費用感と合わせて整理します。
1日で家1軒を網羅
個人で家1軒分を撮影しようとすると、部屋数×3〜5分でも数時間かかり、データの整理や合成にもさらに時間が必要。プロは業務用機材で1日(2〜4時間)で家じゅうを完璧に網羅し、納品データまで作成します。
業務用ミリメートル精度
業務用3Dスキャナー(Matterport Pro2、Leica BLK360、Faroなど)は、ミリメートル単位で測定可能。正確な間取り、家具配置、扉の開き具合まで、肉眼では見落とす細部まで再現されます。10年後に見ても色褪せない精細さがあります。
長期保存・復元保証
プロは納品データだけでなく、オリジナルの撮影データを長期保存します(業者により5〜10年保証)。「20年後にデータ形式が変わって見られない」となったとき、新しい形式に変換できる元データが残っているのは大きな安心材料です。
VRゴーグル対応・複数形式の納品
プロは、Webブラウザ用・VRゴーグル用・動画ツアー・360度パノラマ画像など、複数形式で納品します。家族の年齢・機材環境に応じて、誰でもアクセスしやすい形で残せます。
費用相場(プロ依頼)
家1軒分のVR空間記録は、業者によりますが10万〜30万円程度が相場。3LDK〜4LDKで15万〜20万円、5LDK以上で25万〜35万円。長期保存サービス・VRゴーグル対応データ・動画ツアー納品まで含めるとプラス5万〜10万円。詳しくはVRで家を丸ごと記録する方法と流れ(教科書)を参照。
目的別の使い分け:4パターンと実例
個人スキャンとプロスキャンを目的別に使い分ける考え方を、4パターン+実例で整理します。
パターンA:「とりあえず形だけ残したい」→ 個人で十分
解体まで時間がない・予算が限られている・自分が見返せれば良い、という場合は、スマホでの個人スキャンでも目的は達成できます。「一切残らない」よりは「自分なりに残した」のほうが、後悔が少ないです。費用:無料〜数千円。
パターンB:「家を丸ごと、長く残したい」→ プロが安心
家の細部まで網羅的に残したい、子・孫の代まで届けたい、家族全員にきれいに見せたい――こういう目的だと、プロの業務用機材との差が大きく出ます。投資額に見合う価値があります。費用:15万〜35万円。
パターンC:「両方やる」ハイブリッド型
プロに頼みつつ、家族で個人スキャンも残す併用。プロのデータが「公式記録」、個人スキャンが「家族の手作り記録」として、それぞれ違う価値を持ちます。費用:プロ費用+無料アプリ。
パターンD:「順次対応」型
まず個人で試して、満足度に応じてプロに追加依頼する流れ。個人スキャンで物足りなさを実感した上でプロに頼むので、納得感が高い。費用:段階的、最初は無料、必要に応じて15万〜35万円。
実例:暗い廊下や押入れの中
個人スキャンだと、暗い場所では距離測定が不安定になり、データに穴が空いたり形がぼやけることが多い。プロは補助光を使ったり、撮影位置を調整して暗所も鮮明に残します。これが「ハイブリッド運用」が有効な典型シーン。
実例:天井の高い吹き抜け・鏡面
2階まで吹き抜けの広い空間や、鏡・大きなガラス窓は、個人スキャンだと上下の繋がりや反射の処理で乱れやすい。プロは複数の高さで撮影位置を取ったり、鏡を一時的にカバーするなど特殊処理で対応します。
ハイブリッド運用の具体例
「プロ+DIY」のハイブリッド運用は、両者の強みを活かす実用的な選択肢です。具体的なパターンを紹介します。
パターン1:プロは家全体・DIYは細部補完
プロに家1軒分の業務用VRを依頼し、個人で気になる細部(押入れの奥、屋根裏、地下室など)を補完撮影。プロの3Dデータに統合する必要はなく、別ファイルとして残しておくだけで十分。
パターン2:プロは公式・DIYは家族の手作り版
プロのVRを「公式記録」として保管しつつ、家族イベント時に個人スキャンも撮影。「父が好きだった書斎の細部」「子供時代の自分の部屋」など、家族メンバーごとの思い入れの場所を個別記録。
パターン3:プロはアーカイブ・DIYは普段使い
プロのデータは長期アーカイブとして保管(年に1回程度の確認)、個人スキャンを家族のスマホでいつでも見られる状態に。役割分担で運用負荷を下げます。
パターン4:DIY先行→不満発生時にプロ追加
解体3か月前にDIYで撮影してみて、家族で確認。「もう少し精度が欲しい」「ここを残せていない」と感じたら、解体1か月前にプロを追加で依頼。費用と満足度のバランスを段階的に取る方法。
ハイブリッド運用の費用感
プロ15万〜25万円+個人スキャン無料〜数千円=総額15万〜25万円程度。プロのみより数千円増の追加で、家族の関与度と満足度を高められます。
コスト比較表と判断ツリー
個人vsプロの判断基準を、コスト比較表と判断ツリーで整理します。
コスト比較表
個人スキャン(iPhone Pro+アプリ):機材代0円(既存スマホ利用)/アプリ代0〜数千円/時間:1〜2時間/合計:0〜数千円。中規模業者:機材代0円/業者料金10万〜20万円/時間:施主立ち会い半日/合計:10万〜20万円。プロ業務用業者:機材代0円/業者料金15万〜35万円+オプション5〜10万円/時間:施主立ち会い半日/合計:15万〜45万円。
判断ツリー:3つの質問
(1)「このデータを子・孫の代まで残したいか?」(2)「家じゅうの全部屋を網羅したいか?」(3)「精度に妥協したくないか?」――この3つにすべて「はい」ならプロ、1つでも「いいえ」があれば個人スキャンでも目的は達成できる、と判断できます。
解体までの時間で判断
3か月以上:プロ可能、ハイブリッドも検討。1〜2か月:プロ予約取れれば可能、ダメなら個人スキャン中心。1か月未満:個人スキャンが現実的、または短納期対応してくれるプロを探す。
家族構成で判断
世代を超える継承を意識:プロが安心。一世代内で完結(自分の心の整理):個人スキャンで十分。複数家族で共有:プロが操作・共有のトラブル少ない。
「迷ったら個人スキャンを試す」
判断に迷う場合は、まず個人スキャンを30分試してみるのが有効。実際に触ってみないと、自分の家族の納得度が分かりません。試した結果で「物足りない」と感じたらプロに切り替える流れ。
始める前のチェックリスト
個人スキャンを始める前に確認すべき項目を整理します。これだけ押さえておけば、無駄な作業や失敗が大きく減ります。
機材チェック
(1)使用する端末がLiDAR搭載か(iPhone Pro系/iPad Pro 2020以降)、(2)ストレージ容量が十分か(家1軒分で5〜20GB必要)、(3)バッテリー残量が80%以上か、(4)ケーブル・予備バッテリーの準備、(5)アプリのインストールと動作確認。
家のチェック
(1)カーテン全開・照明全点灯、(2)映ってほしくない物の処理(個人情報・写真など裏返し)、(3)家具を動かすなら撮影前に決める、(4)床に物を散乱させない(撮影しやすさのため)、(5)ペットがいる場合は別室に。
撮影スケジュールチェック
(1)撮影日時の決定(明るい時間帯)、(2)所要時間の確保(家1軒で1〜2時間)、(3)家族との連絡(必要に応じて立ち会い)、(4)再撮影の余裕日程確保(初回失敗時のため)。
保存・共有チェック
(1)バックアップ先3か所の準備(クラウド2+外付けHDD等)、(2)汎用形式(OBJ/PLY/GLB)でのエクスポート可否確認、(3)家族へのURL共有方法(LINE・メール)、(4)動画版の作成計画(操作苦手な家族向け)。
判断チェック
(1)プロ依頼の検討状況(並行する/しない)、(2)解体までの時間(個人だけで間に合うか)、(3)予算(プロ依頼可能な金額か)、(4)満足度ライン(妥協できるレベルか)。これらを撮影前に整理しておくと、撮影中に迷わず進められます。
まとめ:個人スキャンは「補助」、プロスキャンは「軸」になる
家の3Dスキャンは、スマホの普及で個人でも気軽にできる時代になりました。雰囲気を残す程度なら個人スキャンで十分目的は達成でき、「やらないより圧倒的に良い」記録手段です。費用は無料〜数千円、家1軒分の撮影で1〜2時間。
一方、解体前の家を「丸ごと、長く、正確に」残したい場合、プロの業務用3Dスキャナーとの精度・網羅性・保存性の差は決して小さくありません。費用は15万〜35万円、撮影は2〜4時間、納品は2〜4週間。子や孫の代まで届けたい記録は、プロに任せたほうが確実です。
本記事の独自フレームワーク「3軸比較」では、精度・網羅性・保存性の3つで個人とプロを比較しました。3軸すべてで高い水準を求めるならプロ、1つでも妥協できる軸があれば個人スキャンでも目的を達成できる、というのが判断基準です。
「個人+プロのハイブリッド運用」も意外と現実的な選択肢です。プロは家全体・公式記録・アーカイブとして、個人は細部補完・家族の手作り版・普段使いとして、役割分担で運用すると、両方の強みを活かせます。費用感はプロのみより数千円増程度。
個人スキャンを始める前のチェックリストは、機材・家・スケジュール・保存共有・判断の5領域。これだけ押さえておけば、無駄な作業や失敗が大きく減ります。
このページに辿り着いた方は、すでに「自分でできるなら自分でやってみたい」という気持ちで情報を集めています。それ自体は素晴らしい姿勢です。あとは、目的と時間と予算に合わせて、自分の家族に合うやり方を選んでください。「やってみる」と決めれば、家を残す選択肢は確実に手の中にあります。
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