解体前に撮っておくべき写真と
撮り方のコツ
「解体前の写真」が、ふつうの写真と違う理由
普段の旅行や記念写真と、解体前の家の写真は、目的も意識すべきポイントも違います。最初に「解体前ならではの撮影視点」を整理しておくと、撮影中に迷うことが減ります。
「撮り直しがきかない」が大前提
解体日が決まると、その日が来たら家は二度と存在しません。撮り損ねた角度・撮らなかった部屋・撮るのを忘れた細部は、解体後に「もう一度撮りたい」と思っても叶わない。普段の写真と違って、解体前の撮影は「やり直し不可」が大前提です。
「家を覚えるため」ではなく「家族や子孫が思い出すため」
自分の記憶を補強する目的だけなら、好きな部屋を数枚撮るだけで十分。けれど、子や孫が将来「おじいちゃんの家ってどんな家だった?」と聞いたとき、それに答えるための写真と考えると、撮るべき種類が変わります。家の全体像、家族の動線、生活の痕跡まで残すと、家を知らない人にも家が伝わります。
「整える前に撮る」が最大の鉄則
解体前は片付けが進みがちですが、片付けてから撮ると「片付いた家」しか残りません。家具の配置、本棚の本、台所の調味料、玄関のマット――こうした「飾っていない日常」が、後で見返したときに最も心が動く部分です。詳しい考え方はVRに映る「飾ってない日常」が思い出になる理由(教科書)に書いています。整理する前に、まず撮ること。
3つの利用シーンを意識する
解体前の写真には3つの使い道があります。①家族の心の整理(自分が見返す)、②家族・親族で共有する(共有写真)、③子孫に伝える(アーカイブ用途)。利用シーンによって必要な写真が違うので、3つすべてを意識して撮影リストを作ると、抜けが減ります。
解体前の写真撮影 5レイヤー(独自フレームワーク)
解体前の家を写真で残すとき、ハウストーリー独自の「5レイヤー」を意識すると、抜け漏れなく豊かに残せます。それぞれのレイヤーには独自の役割があり、補い合って家全体の記録になります。
レイヤー1:外観(家の顔)
家の正面・側面・裏面・全景を撮るレイヤーです。家を「外から見たときの印象」を残します。表札・玄関ドア・郵便受け・窓のディテールも忘れずに。家の顔は、近所の人や家を訪れた人にとっての「あの家」のイメージを構成します。
レイヤー2:俯瞰(各部屋の全体像)
各部屋を1枚で全体が分かるように撮るレイヤーです。「玄関」「リビング」「台所」「寝室」「子ども部屋」「和室」「廊下」「階段」「お風呂」「トイレ」「庭」――それぞれを1〜2枚で全体が分かる構図で残します。これは家の「間取り記憶」を支える写真です。
レイヤー3:動線(家の中の流れ)
玄関を開けたところ、廊下の途中、階段を上る視点、リビングから台所への視線――家の中を歩く視点で連続的に撮ったレイヤーです。これは「身体記憶」を呼び起こす写真。後で見返したとき、「玄関を開けて、靴を脱いで、廊下を進んで……」と動きながら家を思い出せます。
レイヤー4:細部と痕跡(家の履歴書)
柱の傷、壁の落書き、廊下の擦り減り、押入れの中の張り紙、子どもの身長を測った跡、台所の調味料の並び方――家族が暮らしていた具体的な痕跡を残すレイヤーです。これは「物語の素材」になる写真で、後で家族で集まって「これ覚えてる?」と話す材料になります。
レイヤー5:家族×家の瞬間(時間の記録)
家族が家の中で過ごしている瞬間を残すレイヤーです。台所で料理する母、リビングでくつろぐ父、玄関で靴を履く子ども、家族で食卓を囲む光景――「家族×家」の組み合わせは、家がなくなってからは絶対に再現できません。家ではない別の場所での家族写真は撮れますが、「この家での家族の様子」は今しか撮れません。
外観の撮り方――「家の顔」を残す7枚
外観のレイヤーで具体的に何を撮るべきか、7枚の構成を提示します。これだけ押さえておけば、家の外観として後悔なく残せます。
1. 正面の全景(垂直構図)
家の正面が全部入る位置から、垂直に1枚。これが「家の象徴写真」になります。家の前に立ち、屋根から門・庭まで含めて1枚に収めます。傾けず、まっすぐに。手前に植木や塀がある場合は、その関係性も含めて撮るのが家の個性です。
2. 正面と前面道路の関係
家から少し離れて、家と前面道路の関係性が分かる写真。これは家を訪れた人が最初に見る視点を残します。電柱・道路標識・隣家の位置関係まで含めると、家の「立地の記憶」が残ります。
3. 玄関のクローズアップ
表札、ドアノブ、郵便受け、玄関灯、玄関マットを含めた玄関のディテール。「家の入口」は家の個性が最も濃い場所のひとつです。表札の文字、ドアの傷、郵便受けの数字――こうした細部が後で見返したときに泣ける部分です。
4. 側面と裏面
家を一周して、側面と裏面も撮影。普段は見ない角度ですが、家の全体像を伝える上で重要です。エアコンの室外機、給湯器、物干し台、雨樋、外階段なども忘れずに。
5. 庭・植木・カーポート
庭がある家は、季節の植物・庭石・物置・物干し竿の位置まで残します。家族の暮らしの場としての「外」の記録です。家庭菜園があった畑、咲いていた花、植えていた木――家族のストーリーが詰まる場所です。
6. 家族と一緒の家族写真
家の前で家族全員(または可能な人だけ)で1枚。これは将来「この家族はこの家で暮らしていた」と伝える証拠写真になります。三脚があると確実、なければスマホのタイマー機能で撮影。
7. 季節を感じる1枚
春なら桜・夏なら緑・秋なら紅葉・冬なら雪――現在の季節を感じる要素を入れた写真。可能なら四季それぞれ撮るのが理想です。難しい場合は「現在の季節の家」だけでも残しておくと、思い出として強く機能します。
屋内の撮り方――俯瞰・動線・細部を組み合わせる
屋内(レイヤー2・3・4)は、各部屋ごとに「俯瞰1枚+動線2〜3枚+細部3〜5枚」を意識します。3つの視点を組み合わせるのが、屋内撮影の基本構造です。
俯瞰:壁を背にして広く撮る
各部屋の俯瞰は、入口の対角の壁を背にして、部屋全体が入る構図で撮ります。スマホの広角モードを使うと部屋全体が入りやすくなります。床と天井が両方とも一部映る角度がベスト。家具の配置と部屋の広さの両方が伝わります。
4方向を撮る「正面・左・右・天井or床」
部屋の中央に立ち、正面・左壁・右壁・天井(または床)を順に撮ります。これでその部屋の全方位が記録できます。VR空間記録に近い情報量を、写真でカバーする方法です。
動線:玄関→廊下→各部屋を連続で
家の中を歩く目線で連続的に撮ります。玄関のドアを開けたところ、靴脱ぎ場、廊下の入口、廊下を進む視点、階段、踊り場、2階の廊下――後で並べて見ると、家の中を歩いている感覚が戻ってきます。「目線の高さ(自分の身長)から撮る」のがコツ。
動線の「分岐点」を意識
廊下が左右に分かれるところ、階段の踊り場、玄関から見える奥の景色――家の中の「分岐点」を意識して撮ると、家の構造の理解が深まる写真になります。
細部:暮らしの痕跡を3〜5枚
その部屋で「これは残したい」と思うものを3〜5枚撮ります。本棚の本の並び、机の上のメモ、壁のカレンダー、窓から見える景色、柱の傷、壁の落書き――家族の暮らしの跡が残るものを選びます。
気をつけたい部屋――押入れ・クローゼット・物置
押入れの中、クローゼットの中、物置の中など、普段は閉じている空間も忘れずに開けて撮影します。家族の歴史的な物(古いアルバム、子どもの工作、亡くなった親の道具)が眠っていることも多く、解体直前まで気づかれないこともあります。
「家族×家」の瞬間の撮り方
レイヤー5の「家族×家の瞬間」は、写真の中でも最も心が動く部分です。けれど意識しないと撮り忘れがちなので、独立してコツを整理します。
「いつもの場所」での日常風景
食卓に座って話す家族、台所で料理する母、玄関で靴を履く子ども、リビングのソファでくつろぐ父――「いつもの場所」での何気ない瞬間を撮ります。「特別なポーズ」より「いつも通り」のほうが、後で見返したときに泣けます。
家族の「手」と「使っている道具」
母の手と裁縫道具、父の手とコーヒーカップ、祖父の手と万年筆――顔は写さなくても、手と道具の組み合わせは家族の気配を強く残します。プライバシーを守りつつ家族を記録する強力な手段です。
家族会議や食事の風景
解体について話し合っている食卓、最後に家で食べた朝食、家族写真のために集合した瞬間――家族が家に集まっている場面そのものが、最大の記録対象。動画を回しっぱなしで撮影し、後で気に入った瞬間を静止画として切り出すのも有効です。
子ども・孫の視点
幼い子どもや孫がいる場合、その子の身長から見た家の風景も撮ります。子ども目線の写真は、大人目線では絶対に撮れない構図になり、後で「あの子にとっての家」を伝える手がかりになります。
祖父母の「いつもの場所」
高齢の家族(祖父母世代)がいる場合、その人がいつも座っている場所、いつも使っている道具、いつもの服装での写真を意識的に。後で「もう撮れない人」になる可能性を考えると、優先度が最も高い撮影対象です。
撮影機材と設定――スマホで十分か、一眼を使うか
解体前の写真撮影に必要な機材と、設定のコツを整理します。
スマホでも十分残せる
結論から言うと、スマホでも解体前の写真は十分に残せます。最近のスマホは画素数も多く、広角レンズも内蔵されているので、家の中の写真を撮るには困りません。「機材がないから撮れない」と先延ばしせず、手元のスマホで今日から撮ることをおすすめします。iPhone 12 Pro以降のProシリーズなら、LiDARを使った疑似3D機能も使えます。
一眼レフ・ミラーレスを使う場合の利点
一眼レフやミラーレスを使う利点は、暗い場所でもきれいに撮れる、広角レンズで部屋全体が入りやすい、解像度が高くプリント耐性がある、という3点。プリントして家族で共有する予定があるなら、一眼レフのほうが満足度が高くなります。レンタルなら1日5,000〜1万円程度で借りられます。
三脚と広角レンズの活用
部屋の俯瞰を撮るときは、三脚と広角レンズの組み合わせが最強です。三脚があるとブレないので、暗い室内でもきれいに撮れます。広角レンズ(換算20mm前後)があると、狭い部屋でも全体が入ります。レンタルでも数千円なので、検討する価値があります。
撮影設定のコツ
室内の写真は、ホワイトバランスを「自動」より「電球」または「蛍光灯」に手動で合わせると、色味が自然になります。露出は明るめに(+0.3〜+0.7)すると、暗い室内でも雰囲気を保てます。RAW形式で撮ると、後で明るさ調整がしやすくなります。
連写と動画の併用
家族の動きや家族写真は、連写モードで複数枚撮ると、目を閉じている写真や微妙な表情を後から選べます。動画も並行して撮っておくと、動き・声・音まで残せて、写真の補完になります。スマホなら「LivePhotos」機能を使うと、1枚の写真に前後数秒の動画が付くので便利。
撮影スケジュールと現地訪問計画
「いつ、何を、どのくらい撮るか」のスケジュール感を整理します。遠方住みの方も含めた現地訪問計画を提示します。
解体3か月前:四季の外観撮影開始
春夏秋冬すべて撮りたい場合は、3か月前から開始。すでに季節が決まっている場合は、現在の季節を中心に撮ります。家族で1日集まる「家じまい合宿」を3か月前に1回設定するのもおすすめ。
解体1か月前:屋内全方位撮影
家具がまだある状態、暮らしの痕跡が残った状態で、屋内のレイヤー2・3・4をまとめて撮影。1日かけて家じゅうを回ると、3LDK1軒で500〜1500枚撮ることになります。
解体2週間前:「家族×家の瞬間」撮影
家族が集まれる週末を選んで、レイヤー5の「家族×家の瞬間」を集中撮影。家族での食事、家族会議、家族写真など。動画も並行で撮影。
解体1週間前:細部の補完撮影
これまでの撮影で「撮り忘れた細部」「もう少し撮っておきたい場所」を補完。押入れの中、物置の奥、屋根裏など、普段見ない場所を中心に。
解体当日:最後の家
家具がすべて運び出された空っぽの状態の家を、もう一度撮影。空っぽの家には、暮らしていた時とは違う「家そのものの輪郭」が見えます。これは解体当日にしか撮れない、貴重な記録です。
遠方住みの場合の集中訪問
実家から離れて住んでいる方は、3か月で4回の訪問計画(3か月前・1か月前・2週間前・当日)を立て、各回で重点的にレイヤーを進めると効率的です。1回の訪問で1〜2レイヤー集中、というメリハリのある計画が現実的。
撮影後の整理と保存――データを「使える形」で残す
撮影が終わったら、データを整理・保存する作業が必要です。これを怠ると、せっかくの写真が「埋もれて見られない」状態になります。
フォルダ構成は「家×レイヤー×場所」で
「実家_2026年5月_解体前」のような大フォルダの下に、「外観」「俯瞰」「動線」「細部」「家族」のサブフォルダを切り、その下に「玄関」「リビング」など場所別のフォルダを切ります。最初に整理しておくと、後で探しやすくなります。
クラウドへの保存(複数箇所)
スマホやPCに保存するだけでは、機器の故障で消える可能性があります。Googleフォト、iCloud、Dropbox、外付けHDDなど、最低2箇所にバックアップしておくのが安全。「孫の代まで残す」つもりなら、3箇所バックアップが望ましいです。
家族で共有するアルバム
Googleフォトの共有アルバム、LINEアルバムなどで家族と共有しておくと、「兄弟全員が同じ写真にアクセスできる」状態が作れます。これは将来、家族の中で家の話をするときに大切な共有資産になります。
プリントアルバムも作る
デジタルだけでなく、年配の家族が見やすいプリントアルバムも1冊作ることをおすすめします。フォトブック作成サービス(しまうまプリント、富士フイルム、TOLOTなど)で、3,000〜10,000円程度。両親にプレゼントすると、解体後の心の整理にも役立ちます。
ありがちな失敗5つと回避策
解体前の写真撮影で「やってしまった」と後悔されるパターンを、5つに整理します。
失敗1:片付けてから撮ってしまった
「散らかっているから片付けてから撮ろう」と整理してしまうと、家の本当の姿が消えてしまいます。回避策は、整理の前にまず撮ること。「整っていないままが本物」と頭に入れて撮影しましょう。
失敗2:俯瞰だけ撮って細部を撮らなかった
部屋全体の写真は撮ったものの、柱の傷や押入れの中など細部を残さなかったケース。回避策は5レイヤー意識を持つこと。部屋ごとに「俯瞰1枚+細部3〜5枚」を機械的に撮ると、細部の取りこぼしが減ります。
失敗3:解体直前に慌てて撮った
解体1〜2日前にまとめて撮ろうとすると、家具撤去・残置物処分・近隣挨拶などと重なって、撮影に集中できないまま当日を迎えることが多い。回避策は、解体3か月〜2か月前から計画的に撮影を始めること。
失敗4:データのバックアップを怠った
撮ったデータをスマホやPCに置いたまま、機器の故障で全部消えたケース。回避策は、撮影日の夜にクラウドへバックアップ、外付けHDDにもコピーを取るルーティンを作ること。
失敗5:人を撮らなかった
家の中の家具や物だけ撮って、家族や親族を撮らなかった後悔。家族はその家にいる時間がもう取れないかもしれない高齢の親族のような場合、後悔が深くなります。回避策は、撮影日に家族を呼んで「家族×家」の写真を意識的に撮ること。詳しくは後悔しない実家じまいのために解体前にやるべきこと(教科書)に整理しています。
まとめ:写真は「タイミング」と「種類」で決まる
解体前の写真撮影で大切なのは、「タイミング」と「種類」の2つです。タイミングは、解体3か月〜2か月前から計画的に撮ること。直前にまとめて撮ろうとすると、ほかの作業と重なって取りこぼしが生まれます。
種類は、本記事の独自フレームワーク「5レイヤー」――外観・俯瞰・動線・細部・家族×家の瞬間――を意識すること。レイヤーごとに役割が違い、補い合って家全体の記録になります。「写真を増やす」より「レイヤーを揃える」発想で撮ると、後悔が減ります。
外観は7枚(正面・道路関係・玄関・側面と裏・庭・家族写真・季節)、屋内は各部屋に俯瞰+動線+細部の3視点、家族×家の瞬間はいつもの場所での日常風景・手と道具・家族会議・子ども目線・祖父母のいつもの場所、の5種類が押さえどころです。
機材はスマホで十分、ただし広角レンズと三脚があるとさらに良い。撮影スケジュールは3か月前→1か月前→2週間前→1週間前→解体当日の5段階で組み、遠方住みの場合は4回訪問計画を意識。撮影後の整理・バックアップを怠らず、家族でアルバムを共有することで、写真は「思い出す道具」として何十年も活躍します。
ありがちな失敗は、片付けてから撮る/細部を撮らない/直前に慌てる/バックアップを忘れる/人を撮らない。これらをチェックリストとして使ってください。
このページに辿り着いた方は、すでに「丁寧に残したい」という気持ちで情報を集めています。あとは、レイヤーを意識しながら、自分の家族と家の状況に合わせて撮影リストを作ってください。「壊す前にしか撮れないもの」は思っているより多く存在します。今日からでも始められる、いちばん身近な記録手段が写真です。
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監修:畠山 琢(株式会社Leoline 代表取締役)/制作:ハウストーリー編集部

